大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

水戸地方裁判所 昭和23年(行)23号 判決

原告 皆藤茂平

被告 茨城県知事

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は被告が別紙目録記載の土地について昭和二十二年十二月二十二日附買收令書をもつてなした買收処分を取消す、訴訟費用は被告の負担とすとの判決を求め、その請求原因として、訴外大谷村農地委員会は昭和二十二年八月二十八日原告所有の別紙目録記載の土地につき自作農創設特別措置法による買收計画を樹立したので、原告は同年九月七日これに対し異議申立をしたところ、同月十六日却下せられた。そこで同年十月十五日更に茨城縣農地委員会に対し訴願をしたところ、同年十二月二日棄却の裁決があつたのであるが、右買收計画には次のような違法な点があるに拘らず被告は同月二十二日附買收令書をもつて右計画に基いて違法にも買收処分を敢てなした。即ち

第一点、自作農創設特別措置法は從來の小作農の地位を昂め自作農とするとともに地主を自作農の地位以下に轉落せしめることのないようにして、農村の民主化を図ることを目的とするものであるから同法の精神に徴し農地の買收をなすには農村の実情に應じて各農家の経営する田畑の割合をも適切に勘案按配しなければならないのに、本件買收は原告所有の田を一筆も余すところなく買收し、家族九人を擁し農業施設を有し稼働人員を相当に包有する原告をして自作農として立つ能はざるに至らしめたものであるから、自作農創設特別措置法第一條に徴し明らかに違法である。尤も原告所有の農地の内大谷村字天矢場七四一番田四畝十一歩外三筆合計一反七畝二十三歩は買收より除外せられたけれどもこれは公簿上田とせられているだけで実は磽角不毛荒廃し数十年來耕作不能の土地で免租地となつているから無いのと選ぶところがない。

第二点、別紙目録記載の土地はいずれも買收計画当時は小作地ではあるが、そのうち大部分はもと原告が自作していたものであつた。処が原告の長男茂才は昭和十二年十二月一日現役兵として召集せられ、昭和十五年六月一應帰還したが昭和十六年八月二日再度召集せられた。又二男卓也三男正己も相次いで應召、残つた家族は婦女子のみとなつた爲耕作不能に陷つた結果やむを得ず一時皆藤源治に対し前記土地のうちではないが大谷村所在の畑一反十五歩を、平沼美千男に対し同じく前記土地のうちではないが大谷村所在の田一反九畝歩と共に別紙目録記載(一六)・(一七)の畑を、浅倉光義に対し同(六)の田を、岩本卯之松に対し同(八)(九)(一〇)の三筆の畑を、菅谷庄次郎に対し同(一八)の畑を小作せしめるに至つたものである。從つて此等小作地は自作農創設特別措置法第五條第六号同法施行令第七條第一号に該当し買收すべきではないに拘らずこれを買收した違法がある。しかも右小作人平沼美千男、菅谷庄次郎等の如きは原告家にて自作するの正当なることを認め買收せざるよう大谷村農地委員会に陳情さえしている次第である。

第三点、自作農創設特別措置法第三條第三項の規定からすれば、農地の所有者には小作地として保有地を残さるるのであるがこれはその質において買收さるべき農地とは少くとも同等位でなければならない。然るに原告の保有地として残されたものは大谷村大字玉田字仲野九〇九番九一〇番合併山林一町七反三畝二十七歩の内開墾畑一町二反歩で、これは昭和十三年中一旦開墾に着手して見たが成功の見込がないので植林の予定であつたもので偶々昭和十五年附近に駐屯した立花部隊の農耕練習用として提供し終戰後も依然としてその儘であり、等外地とせられ、北向傾斜の土地で冬作不能、僅かに夏作のみ辛うじて收穫見込あるに過ぎない。かゝる耕地は当時の法第五條第一項第七号に所謂收穫著しく不定な土地として買收の対象とならぬものとせられている。これを他面から見ればかかる耕地は保有地とすべきものでないことを推知せしめるものである。然るに本件買收計画では適当な耕地は買收し、かかる不適地を原告の保有地に残したのであるから本件買收は違法である。

以上の如く前記大谷村農地委員会の樹立した買收計画は違法であるからこれに基いて被告のなした前記買收処分も違法でありその取消を求むる爲本訴に及んだ次第であると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、被告が原告主張の経過をもつて別紙目録記載の土地について大谷村農地委員会の樹立した買收計画に基いて自作農創設特別措置法による買收処分をしたことは認める。けれども原告が違法であると主張する点については第一点の事実は否認する。第二点の事実は陳情書のあることは認めるけれどもその余は不知。仮りに原告主張事実が全部認められるとしても子の出征は同法第五條第六号同法施行令第七條第二号に該当しない。第三点については自作農創設特別措置法には買收地と保有地と同等位でなければならぬという制限はない。故に原告の請求は失当であると述べた。(立証省略)

三、理  由

訴外大谷村農地委員会が昭和二十二年八月二十八日原告所有の別紙目録記載の土地について自作農創設特別措置法に基づく買收計画を樹立し、その後原告主張の如き経過を経て被告は右計画に從つて右土地に対し昭和二十二年十二月二十二日附買收令書を発して買收処分をなしたことは爭いない。よつて右買收計画が原告が主張するように違法であるかどうかについて判断する。

第一点、原告は原告所有の田のうち僅かに磽角不毛の土地のみを残して他を悉く買收したのは違法であると主張するけれども自作農創設特別措置法による買收計画を樹立するに当つて農地所有者に必ず田と畑とを併有せしめなければならないと解すべき根拠はなく特定の農家において田は全部買收せられ畑のみ残存する計画となることも別に違法と認められない。又原告の立証を以てしては本件買收によつて原告が自作農として立つ能はざるに至つたと言う事情はこれを認めるに足りないから原告主張の第一点の主張は認容出來ない。

第二点、原告本人の供述(後記措信しない部分を除く)によると原告の男子三人が昭和十二年頃より相次いで應召出征したことは認められるけれども右應召出征の爲原告の主張する数筆の田畑が一時賃貸せられたものであるとの点についての原告本人の供述及び証人皆藤平右の証言は輙く措信し難く又甲第五、第六号証もその記載は右証人の証言に徴し措信することが出來ない。他に原告主張事実を認定出來る証拠はない。從つてこの点における原告の主張も採用できない。

第三点、原告はまず農地の所有者に保有地として残さるる小作地は買收せらるべき農地と少くとも同等位でなければならないのに遙かに質の惡い土地のみを残したから違法であると主張するが、かかる趣旨の規定は自作農創設特別措置法及びその関係法令中に存在せず、又右法令の精神をそう解釈しなければならない根拠も見当らない。しかして証人菅谷佐金次、同菅谷庄三郎の各証言竝びに原告本人の供述によると原告保有地として残存した大谷村大字玉田字仲野所在畑一町二反余は北向に傾斜した開墾畑で昭和十五年頃駐屯していた軍隊に農耕用として一時貸與せられたものであるが、その後昭和二十年右駐屯部隊の解散により一旦返還を受け、更に昭和二十一年春訴外櫻井正一郎等数名のものに賃料反当り年三十円で賃貸したもので、現在その地味は所謂等外地として劣等であることが認められるけれども、証人鈴木利衞門、同櫻井正一郎の証言によると右は前記軍隊が使用をやめた直後こそ荒れていたが既に昭和十三年頃から開墾せられたものであつて現在耕作中の櫻井正一郎等の手入れによつて惡い土地ではあるが冬作についても反当り二俵程度の麦の收穫をあげて居り右櫻井正一郎は右土地の内三反五畝十四歩から昭和二十四年度は麦四俵菜種五斗を收穫している事実が認められる。原告の援用する各証言竝びに原告本人の供述中右認定に反する部分は措信出來ない。結局此等の耕地は劣等地ではあるが收穫不能の土地ではないと認められる。而して原告の立証を以てしては買收せられた農地と右の農地とが地味において如何なる差異があつたかは分らないし又右の劣等地の保有によつては原告の耕作者としての地位の安定を覆すことを認めるに足るものもない。從つて原告主張の第三点の理由により前記買收計画を違法とすべき理由はない。

しからば原告が本件買收処分が違法であると主張する点はいずれも理由がないから右処分の取消を求める原告の本訴請求は失当と認めこれを棄却すべく訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 角村克己 鈴木盛一郎 綿引末男)

(目録省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!